名古屋地方裁判所 昭和35年(モ)614号 決定 1960年4月13日
申立人 住田一義
右代理人弁護士 亀井正男
主文
名古屋地方裁判所の判決確定証明付与の係書記官は、昭和三十五年三月二日に申立人から申請された名古屋地方裁判所昭和三一年(ワ)第四三三号家屋明渡等請求事件における第一審判決中主文第二、三項についての確定証明書を申立人に付与しなければならない。
理由
本件記録を審査するに昭和三十一年三月二十四日に申立人は浅井定一、有限会社丸星商会、内ヶ島正一及び稲本二三男に対して名古屋地方裁判所に訴を提起し「被告等は原告に対し別紙第一目録記載の家屋を明渡し且つ被告浅井定一は金二百十六万四千円及びこれに対する昭和三十一年一月一日から右完済に至るまで年五分の割合による金員及び被告等は各自昭和三十一年一月一日から右家屋明渡に至るまで一日金三千五百円の割合による金員を支払え。被告浅井定一及び同有限会社丸星商会は別紙第二目録記載の家屋を明渡し且つ同被告等は各自昭和三十年九月一日から右家屋明渡に至るまで一日金二千四百円の割合による金員を支払え、訴訟費用は被告等の負担とする」との判決と仮執行の宣言とを求めた。名古屋地方裁判所はこれを同庁昭和三一年(ワ)第四三三号家屋明渡等事件として審理した結果、昭和三十三年三月七日「一、被告浅井定一及び被告有限会社丸星商会は原告に対し別紙第一目録記載の家屋を明渡せ。二、被告浅井定一は原告に対し金二百十六万四千円及びこれに対する昭和三十一年一月一日以降完済まで年五分の割合による金員を支払え。三、被告浅井定一及び被告有限会社は原告に対し各自昭和三十一年一月一日以降右第一項の家屋明渡まで一日金三千五百円の割合による金員を支払え。四、(判決には三と記載されているが明かな誤記と認める。以下二項についても同断)被告浅井及び被告有限会社丸星商会に対する原告その余の請求並びに被告内ヶ島正一、稲本二三男に対する原告の請求はこれを棄却する。五、訴訟費用中原告と被告浅井定一及び同有限会社丸星商会との間におけるものは二分しその一を原告その一を右両被告の負担とし原告と爾余の被告等との間におけるものは原告の負担とする。六、本判決中原告勝訴の部分に限り担保として被告浅井定一に対し金八十万円被告有限会社丸星商会に対し金二十万円を供するときは仮に執行することができる。」との判決を言渡した。ところが右判決に対し原告及び被告浅井定一同有限会社丸星商会よりそれぞれ控訴の申立がなされたので右事件は名古屋高等裁判所の昭和三三年(ネ)第一二六、一二七号家屋明渡等請求事件として係属し、その係属中昭和三十三年六月二十七日叙上第一審原告と第一審被告浅井定一同有限会社丸星商会との間に「第一審被告浅井定一及び同有限会社丸星商会は第一審原告に対し昭和三十三年七月七日限り別紙第一目録記載の家屋を明渡すものとする。但し第一審被告等は、当該家屋を現状のまま無条件明渡すものとし、当該家屋に関して向後何等の名義たるを問わず第一審原告に対し一切の要求をしないものとする。二、第一審被告等が前記期日までに当該家屋の明渡しを完了したるときに限り、その翌日第一審原告は第一審被告等に対し恩恵を以て金十五万円を給付するものとする。三、第一審被告等は別紙第一目録記載の家屋の明渡しに関する部分を除くほか、本件控訴をここに取下げる。四、本和解の成立は、別紙第二目録記載の家屋に関する事項その他当事者間における債権債務に何等の影響を及ぼさないものとする。五、第一審被告等は、第一審原告が第一審判決の仮執行のため供託した金百万円についてなす担保取消決定申立に同意し、且つ該決定に対する抗告権を放棄するものとする。六、第一審被告等の控訴に係わる部分の訴訟費用は、第一、二審を通じ、各自弁とする。」との裁判上の一部和解が成立した。しかしてその後昭和三十四年六月三十日名古屋高等裁判所は叙上控訴事件につき当事者表示を控訴人住田一義、被控訴人浅井定一、同有限会社丸星商会として「原判決を取消す。被控訴人等は控訴人に対し、別紙目録記載(叙上第二目録記載の建物と同一)の建物を明渡せ。被控訴人浅井定一は控訴人に対し、昭和三十年九月二十九日より右建物明渡ずみに至るまで、一日金二千四百円の割合による金員を支払え。控訴人のその余の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人等の負担とする。この判決は控訴人において、各被控訴人に対し金三十万円の担保を供すれば勝訴の部分につき仮に執行することができる。」との判決をなし、これに対し右被控訴人等は上告したが昭和三十四年九月十五日名古屋高等裁判所は被控訴人等が法定の期間内に上告理由書を提出しなかつたとの理由にて右上告を却下する旨の決定をなしその後該決定は確定した。そこで第一審原告たる本件申立人は前掲第一審判決主文中第二、三項の部分も確定したものとしてこの部分の確定証明書の付与を名古屋地方裁判所に申請したところその係官は右申請を拒絶した。以上のことが認められる。そこで右拒絶の理由を考えてみるにおそらくその係官は第一審判決は叙上の如く原被告等双方からの控訴により右事件は第二審に全面的に移審しその判決の確定力は全部に亘つて遮断されるに至つたのであるからその後第二審裁判所が前叙のように原判決を全面的に取消し第一審原告たる申立人の別紙第二目録記載建物についての明渡と右明渡迄の損害金の一部を認容したのみでその余の請求を棄却した以上第一審判決主文中第二、三項も取消された上これが請求を棄却されたものと解したためと思われる。しかしながら本件が第二審裁判所に係属中前述のような裁判上の一部和解が成立し第一審被告浅井定一と同有限会社丸星商会は右主文中の第二、三項についての控訴を取下げたのであるから右控訴取下がたとい一部控訴の取下としてその効力が生じないとの説を採るとしても(なるほど前叙和解条項の三には「第一審被告等は別紙第一目録記載の家屋の明渡しに関する部分を除くほか本件控訴をここに取下げる」と記載されているため一見一部控訴の取下のように見えるが右控訴取下の部分を除く第一審被告浅井定一同有限会社丸星商会の第一審判決における敗訴部分は右第一目録記載家屋の明渡を命ぜられた以外にはなくこの部分は当該和解によりこれが明渡期限を定めるとともに明渡完了により同人等において金十五万円の給付を受けられる旨の約定が成立したのであるから叙上部分は右和解成立によつて本件訴訟から完全に脱落したわけであつて結局第一審被告浅井定一、同有限会社丸星商会は全部控訴の取下をしたことになると解すべきであろう)少くとも控訴取下部分についての不服申立を減縮したと考えるべきである。名古屋高等裁判所も右同様の見解をとつたからこそ、その第二審の判決理由中で右部分の判断を全然していないのである。したがつてその判決主文において原判決を取消すとあるのは第一審原告が不服として控訴を申立てた第一審判決主文中の第四、五項を指すものと解すべきであり、その余の請求を棄却するとあるのは別紙第二目録記載建物についての損害金支払の起算日を第一審原告不利に認定した部分を指すものと解すべきである。しからば第一審判決主文中の第二、三項は第二審判決により何等の変更をも受けず本件事件判決の確定と同時にそのまま確定したものというべきであるから名古屋地方裁判所における判決確定証明付与係の書記官が申立人よりの申請を拒否したのは失当であり直に該証明書の付与をなすべきである。
よつて主文のとおり決定する。
(裁判官 木戸和喜男)